アプリ開発に使える脳科学マーケティング13の原則 — 確かさつき・使わない説も
アプリで使える脳科学マーケティングの多くは、脳の画像研究ではなく、認知心理学と行動経済学です。迷わせない・続けてもらう・納得して払ってもらう、の3つに効く研究を、論文まで確かめて13個に絞りました。
3行でわかる
- 最初の画面は選択肢を少なく、押す所を大きく。初期設定は使う人に得な方に
- 続けてもらうには「いつ・どこで使うか」を決めてもらい、思い出す練習と間隔を空けた復習を入れる
- 習慣になるまでは中央値66日。課金の案内は価値を感じた後に1回だけ
確かさ: A 確か=メタ分析・大規模な再現・長く再現されてきた法則があり、効果があること自体が確か/B 条件しだい=場面で結果が変わる・争いがある(基準)。
01 使える原則アプリ作りに使える原則は?
メタ分析で確かなもの(A)は、ボタンの大きさ・初期設定・実行意図・思い出す練習の4つ。ほかは条件しだい(B)。
| 原則 | わかっていること | 確かさ |
|---|---|---|
| 最初の画面の選択肢は少なく | 一度に頭に置けるのは4つ前後。並べる数が増えるほど、選ぶ時間は長くなる | B 条件しだい |
| 選択肢が多すぎると決めにくい | 平均すると効果はほぼゼロ。違いがわかりにくい・決め方がないときに強く出る | B 条件しだい |
| 押す所は大きく近く | 大きく、指から近いボタンほど速く正確に押せる | A 確か |
| 初期設定はそのまま選ばれる | 初期設定は選ぶ結果を大きく動かす。ただし場面でばらつきが大きい | A 確か |
| 「いつ・どこで」を決める | 「朝ごはんの後に開く」のように決めると、実行が増える | A 確か |
| 思い出す練習と間隔 | 読み返すより思い出すほうが、詰めるより間隔を空けるほうが残る | A 確か |
| ゴールが近いと頑張れる | 進み具合が見え、ゴールが近づくほど続けやすい | B 条件しだい |
| 最初から少し進んでいる | 最初からいくつか埋まったスタンプカードのほうが、最後まで達成されやすかった | B 条件しだい |
| 区切りの日に始めやすい | 週の初め・月の初め・誕生日のあとは、新しいことを始めやすい | B 条件しだい |
| 習慣になるには時間がかかる | 習慣になるまでの中央値は66日。人や行動で18〜254日と大きく違う | B 条件しだい |
| ごほうびで釣りすぎない | 条件つきのごほうびは、自分からやる気を下げることがある | B 条件しだい |
| 終わりの印象が残る | 体験は、いちばん強い所と終わりで思い出されやすい | B 条件しだい |
| 通知は見なくても集中を切る | 通知が来ただけで、見なくても作業のミスが増えた | B 条件しだい |
02 どうやってわかったのか確かと言える根拠は?
たくさんの実験をまとめて効果の大きさを出す「メタ分析」で、くり返し確かめられている。
A 確かJachimowicz ほか(2019、Behavioural Public Policy)[4]
58件の研究をまとめると、初期設定は選ぶ結果をはっきり動かした。ただし研究ごとのばらつきが大きい。
どうやって: 臓器提供・年金・環境などの初期設定の研究を集め、効果の大きさを平均した。
A 確かGollwitzer & Sheeran(2006、Advances in Experimental Social Psychology)[5]
「いつ・どこで・何をする」と決めた人は、目標だけ決めた人より実行が多かった。効果は中くらいから大きい。
どうやって: 約8,000人を含む94件の実験をまとめた。
B 条件しだいLally ほか(2010、European Journal of Social Psychology)[12]
習慣の強さが頭打ちの95%に届くまでの中央値は66日。人によって18〜254日だった。
どうやって: 96人に12週間、新しい行動を毎日記録してもらい、82人を分析した。人数が少なく、日数は記録から伸ばした推定。
B 条件しだいStothart ほか(2015、J. Experimental Psychology: Human Perception and Performance)[18]
通知の音や振動が来ただけで、見なくても注意の課題のミスが増えた。
どうやって: 課題中に、本人に知らせずスマホに通知を送った。
03 作るときの当て方アプリのどこに当てればいい?
起動直後・続けてもらう所・課金の案内の3か所。焦らせる・失う怖さで縛る仕掛けは使わない。
最初の画面の入口は1つ
並べる選択肢は3〜5まで。説明の画面を先に並べず、起動して1回使えば価値がわかる形にする。
初期設定は使う人に得な方に
通知は少なめ、データは端末内。オンにしたい機能は、本人に選んでもらう。
「いつ・どこで使うか」を1つ選んでもらう
通知はその時刻に1日1回まで。区切りの日(月曜・月初)に始める案内も効く。
進み具合を見せ、途切れても責めない
連続記録が切れて失うものを作らない。2か月くらいかかる前提で、最初の数週間を支える。
学ぶアプリは思い出すクイズと間隔
日を空けた復習にする。1回の終わりは、できたことを1行で返して気持ちよく終える。
課金の案内は価値を感じた後に1回だけ
何が増えるか・いつでもやめられるかを値段の横に書く。おとりのプラン・偽の割引・カウントダウンは使わない。
04 使わない説よく聞くけれど使わないのは?
根拠が見つからない説と、効いても使う人をだます仕掛けは使わない。
| よく聞く説 | 判定 | 研究では |
|---|---|---|
| 21日で習慣になる | 根拠なし | 研究では中央値66日、人によって18〜254日 |
| おとりの中間プランで高い方を選ばせる | 言い過ぎ | 効く場面が限られ、再現しにくい。効いても操る仕掛けなので使わない |
よく聞く説(集中は8秒・自我消耗・色で○%など)の答え合わせは、よく聞く説10個の答え合わせにまとめた。
05 まだわかっていないことまだわからないのは?
アプリそのもので確かめた研究は少ない。多くは実験室や買い物の場面の研究。
- 無料から有料に移るときの心理「無料」には特別な引きがある(Shampanier ほか 2007)が、無料で使った後に有料へ移る場面を確かめた研究は少ない。
- スマホアプリでの効果の大きさ実験室の結果が、毎日少しずつ使うアプリで同じ大きさで出るかは、わかっていない。
06よくある質問
脳科学マーケティングはアプリ開発に使えますか?
使えます。ただし中身の多くは脳の画像研究でなく、認知心理学と行動経済学です。選択肢を減らす・ボタンを大きくする・いつ使うかを決めてもらう・間隔を空けて思い出させる、などは研究の積み重ねがあります。
アプリの習慣化には何日かかりますか?
毎日の行動が自動になるまでの中央値は66日で、人によって18〜254日と大きく違います(Lally ほか 2010)。「21日」を支える研究は見つかりません。
連続記録(ストリーク)は使うべきですか?
進み具合を見せることは続ける助けになります(Kivetz ほか 2006)。ただ、途切れたときに失う怖さで縛ると、自分から使う気持ちを下げるおそれがあります。途切れても責めずに戻れる形がおすすめです。
出典
- Cowan, N. (2001). The magical number 4 in short-term memory. Behavioral and Brain Sciences, 24(1), 87–114. doi:10.1017/S0140525X01003922
- Hick, W. E. (1952). On the rate of gain of information. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 4(1), 11–26. doi:10.1080/17470215208416600
- Scheibehenne, B., Greifeneder, R., & Todd, P. M. (2010). Can there ever be too many options? A meta-analytic review of choice overload. Journal of Consumer Research, 37(3), 409–425. doi:10.1086/651235
- Jachimowicz, J. M., Duncan, S., Weber, E. U., & Johnson, E. J. (2019). When and why defaults influence decisions: A meta-analysis of default effects. Behavioural Public Policy, 3(2), 159–186. doi:10.1017/bpp.2018.43
- Gollwitzer, P. M., & Sheeran, P. (2006). Implementation intentions and goal achievement: A meta-analysis of effects and processes. Advances in Experimental Social Psychology, 38, 69–119. doi:10.1016/S0065-2601(06)38002-1
- Adesope, O. O., Trevisan, D. A., & Sundararajan, N. (2017). Rethinking the use of tests: A meta-analysis of practice testing. Review of Educational Research, 87(3), 659–701. doi:10.3102/0034654316689306
- Cepeda, N. J., Pashler, H., Vul, E., Wixted, J. T., & Rohrer, D. (2006). Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin, 132(3), 354–380. doi:10.1037/0033-2909.132.3.354
- Kivetz, R., Urminsky, O., & Zheng, Y. (2006). The goal-gradient hypothesis resurrected. Journal of Marketing Research, 43(1), 39–58. doi:10.1509/jmkr.43.1.39
- Nunes, J. C., & Drèze, X. (2006). The endowed progress effect: How artificial advancement increases effort. Journal of Consumer Research, 32(4), 504–512. doi:10.1086/500480
- Dai, H., Milkman, K. L., & Riis, J. (2014). The fresh start effect: Temporal landmarks motivate aspirational behavior. Management Science, 60(10), 2563–2582. doi:10.1287/mnsc.2014.1901
- Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M. (1999). A meta-analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation. Psychological Bulletin, 125(6), 627–668. doi:10.1037/0033-2909.125.6.627
- Lally, P., van Jaarsveld, C. H. M., Potts, H. W. W., & Wardle, J. (2010). How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology, 40(6), 998–1009. doi:10.1002/ejsp.674
- Alaybek, B., Dalal, R. S., Fyffe, S., et al. (2022). All's well that ends (and peaks) well? A meta-analysis of the peak-end rule and duration neglect. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 170, 104149. doi:10.1016/j.obhdp.2022.104149(2024年に訂正あり)
- Chernev, A., Böckenholt, U., & Goodman, J. (2015). Choice overload: A conceptual review and meta-analysis. Journal of Consumer Psychology, 25(2), 333–358. doi:10.1016/j.jcps.2014.08.002
- Fitts, P. M. (1954). The information capacity of the human motor system in controlling the amplitude of movement. Journal of Experimental Psychology, 47(6), 381–391. doi:10.1037/h0055392
- Kahneman, D., Fredrickson, B. L., Schreiber, C. A., & Redelmeier, D. A. (1993). When more pain is preferred to less: Adding a better end. Psychological Science, 4(6), 401–405. doi:10.1111/j.1467-9280.1993.tb00589.x
- Shampanier, K., Mazar, N., & Ariely, D. (2007). Zero as a special price: The true value of free products. Marketing Science, 26(6), 742–757. doi:10.1287/mksc.1060.0254
- Stothart, C., Mitchum, A., & Yehnert, C. (2015). The attentional cost of receiving a cell phone notification. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 41(4), 893–897. doi:10.1037/xhp0000100
- Hagger, M. S., Chatzisarantis, N. L. D., et al. (2016). A multilab preregistered replication of the ego-depletion effect. Perspectives on Psychological Science, 11(4), 546–573. doi:10.1177/1745691616652873
- Frederick, S., Lee, L., & Baskin, E. (2014). The limits of attraction. Journal of Marketing Research, 51(4), 487–507. doi:10.1509/jmr.12.0061